Angels In America ★★★★ (マイク・ニコルズ)

teskere2004-10-10

監督:マイク・ニコルズ
出演:アル・パチーノメリル・ストリープエマ・トンプソンジェフリー・ライト、メアリー=ルイズ・パーカー、パトリック・ウィルソンジャスティン・カーク、ベン・シェンクマン

先日のエミー賞で計11部門を受賞したミニ・シリーズ。
原作はピューリッツァ賞受賞の戯曲で、まともに上演すると上演時間は7時間にも及ぶとのこと。
このテレビシリーズは合計約6時間、しかも原作者による脚色ということで、かなりオリジナルに忠実な作品だと思われます。

という訳で見ました。まるまる6時間。まずタイトルバックが凄く良い出来。
「天使の目線」を意図したであろう、一見普通の空撮なんですが、橋や高層ビル群にたくさんの雲がかかっていたり、一番最後、公園に置かれている天使像にカメラがアップで寄ると、一瞬像が動いてカメラ目線になったり、と微妙な加工がなされていて、この作品のリアリティのレベルを視聴者に伝えることに成功しています。
というのも、映像について「リアリティの許容範囲」が年々狭くなっている現在の観客・視聴者に向けて、リアルな難病ものから、テレビ作品としては過剰にファンタジックな映像までをも含む(いかにも舞台原作らしい)この作品を受け入れてもらう為には、それ相応の手続きが必要な訳で、その役目をわずか数分の映像で達成したこのタイトルバックは、それだけで賞賛に値します。

で、現在の観客の「リアリティの許容範囲」の狭さが、映画の上映時間をどんどん長くしている一因な訳ですが、それは映画でないこの作品には関係ないので無し。

エミー賞総なめは伊達じゃなく、役者陣はみんな好演。(でも、アル・パチーノが主演か?)中でも、個人的にはエミー賞を逃したエマ・トンプソンを推します。
上に掲載した写真は、このDVDのジャケットなんですが、実はこの天使がエマ・トンプソンなんですよ。
最初、エマ・トンプソンの天使なんて、登場した時笑っちゃうんじゃないか、なんて心配したんですが杞憂でした。結構感動的な登場。(第一部の最後に登場します)
そしてこの直後、エマ・トンプソン演じる天使が空中大回転するんですよ! この時はスタントでしょうが、かなりビックリしました。
それからエマ・トンプソンメリル・ストリープジェフリー・ライトは、複数の姿で登場するので、コスプレショーとしてもなかなか面白いです。
そして最終話には、「エクソシスト3」にオマージュを捧げた(←妄想)壁崩壊シーンがあるので、ホラーファンも結構楽しめます。

で、この作品はマイク・ニコルズが久々にとったまともな作品でもあります。
演劇界から映画界に乗り込んできた時のマイク・ニコルズは、かなりアナーキーな存在だった訳で「卒業」なんて、初めて見た時はラストの教会シーンだけ知っていたので、中身がゲスイ「親子丼」話で非常に驚愕しました。
その後、ジョゼフ・ヘラーの「キャッチ=22」という、アメリカ文学のある種金字塔的作品を映画化する訳ですが、(正直映画としての評価は分かれますが)この長大で入り組んだ原作の映画化も、マイク・ニコルズなら可能だろう、という当時の世間の期待が伺えるのではないでしょうか。
で、一時期演劇界に戻ったニコルズは80年代突入と同時に、映画界に戻ってきます。
が、その後の仕事でまともなものといえば「日の名残り」のプロデュース位、というのが俺評価で、「Primary Colors」なんて原作は結構話題になった、大統領選挙に関するスキャンダラスな問題作なのに、いざ映画化されたら「パーフェクト・カップル」なんて甘々な邦題がつけられる程のゆるい作品でもう呆れたもんです。「バードケージ」なんて元作品「Mr.レディMr.マダム」と比べる必要もないくらい酷いですし。
で、今回の復活作が舞台の映像化だったことを考えると、やっぱりマイク・ニコルズは舞台の人なんだから、舞台の映画化ばっかりやってればいいのに、と思ったら次回作「Closer」はその通り、舞台の映画化みたいです。出演:ジュリア・ロバーツジュード・ロウナタリー・ポートマンクライヴ・オーウェン


・余談1
ジョゼフ・ヘラーの「キャッチ=22」は大ベストセラーでもあるんですが(確か数百万部)、どの位読まれていたかを示すデータとして、当時の映画で登場人物が読んでいることがよくあったんですよ。
一時期、キャッチ22を探すのが目的でアメリカ映画を見ていた時期があったんで、見つける度にすげぇ、ここでも読んでるぜと喜んでいました。ここでその研究成果を発表したいところですが、残念ながら覚えてないんです… 最低でも5本の映画の中で読んでました。
そんな訳でキャッチ22はアメリカでは慣用句になっている程、有名な作品なんですが、たまに日本の文章でも「キャッチ22」を使っている人いますね。あれ、みんな分かるのかな?
あと、自分の中で(だけ)「キャッチ=22」の非常に近くに位置してある作品、カート・ヴォネガット・Jrの「スローターハウス5」を読んでる登場人物は見つけられませんでした。

・余談2
今回のエミー賞ミニ・シリーズ部門の監督賞候補なんですが、なんとまあ、凄い面子。

最初、トム・フーパートビー・フーパーと読み間違えたんですが、それも当然なメンツ。

http://www.wowow.co.jp/program/contents.shtml
なお、この作品は「エンジェルス・イン・アメリカ」として、12月にWOWWOWで放送されるようです。


今日はこれから「下弦の月」と「ヘルボーイ」を見に行く予定…なんですがなんか風邪気味。どうしよう。