マイ・ボディガード ★★★★★ (トニー・スコット)

Revenge is a meal best served cold.
クリンゴンのことわざに良く似たこの言葉を、劇中デンゼル・ワシントンが口にすることからも分かる通り、この映画は「リベンジ」の映画である。
これは単に、物語の内容が復讐劇だから、ということだけではない。
プロデューサーのアーノン・ミルチャンにとって、この原作――A・J・クィネル「燃える男」――の映画化は2度目に当り、評判の悪かったスコット・グレン主演の前作*1に対する「リベンジ」なのである。
そして、監督には傑作「リベンジ」を撮り、20年間この企画を片時も忘れなかったという男、われらがトニー・スコット

トニー・スコットは、今回本気である。なにしろ、上映時間が「146分」。もちろん、トニー・スコットのキャリア中最長。
当然、「プロモ上がりの監督が、意気込みすぎてテーマを壮大にし過ぎた結果、まとめ切れずにダラダラ長くなっちゃた」的な146分とは訳が違う。
商業的成功のみならず、芸術・作品的評価も欲しいままにしてきた天才リドリー・スコットを兄に持ち、その陰で自らは職人監督として、製作陣の要求に応えたいわゆる「ハリウッド映画」をコツコツ作り続けてきた、ハリウッド文法を誰よりも熟知した男――トニー・スコットが、初めて自らもプロデュースに名前を連ねた作品で選んだ「146分」である。
プロット自体は、監督の前作「スパイ・ゲーム」と比較すればシンプルとさえ言えるもので、その前作――言うまでも無く、傑作――を126分でまとめあげた男にすれば、通常のハリウッド映画と同様、120分以内で収めることも間違いなく容易だったはずだ。
しかし、トニー・スコット(そしてアーノン・ミルチャンら製作陣)は、146分・R指定というビジネス上のリスクを負っても、この物語にはこの尺が必要である―――という判断を下したのだ。

◎以下、ネタバレは極力控えてます。が、外枠はちょっと語ってます。


公開が伸びちゃったので、当初の計画「劇場で見る」→「ダコたんコメンタリー聞く」が崩れちゃったんですが、結果的にはそれで正解でしたよ。というのも、今回DVDで見たらもう号泣。
劇場で見たらやばかった。先日、劇場で予告編見ただけでも、うるうるしちゃったし… いや、とにかく大傑作なんですよこれは!
前述の通り、ストーリーは至ってシンプル。
対テロ部隊で「暗殺」の仕事を16年間続けてきた男、ジョン・クリーシー(デンゼル・ワシントン)は新たな仕事として、誘拐事件の多発するメキシコシティでのボディーガードを紹介される。
警護の相手であるピタ(ダコタ・ファニング)のおかげで少しずつ、心を開き始めるクリーシー。毎日の警護、水泳のコーチ等を通して、二人の間には特別な絆が築かれていく。そしてある日、「事件」によってその絆が引き裂かれ――男は復讐の鬼と化した。
ほんと、これだけ。え、それで146分なの? なんて思うかもしれませんが、全然長くないです。「レオン」のような特別な状況ならともかく、この映画の設定で二人の絆を描くためには、間違いなくこの程度の尺(最初の50分程の間は、この二人の描写にかなりの部分が費やされます)が必要なのです。
もし、実際見て長いなぁと思ったら、それは残念ですが「あなたはこの映画に選ばれなかった」というしかありません。
いや、これはひどい話じゃなくて、ある種の映画は「観客を選ぶ権利」を有していて、この映画も間違いなくそうなんですよ!(ちなみに自分は「市民ケーン」に選ばれなかった)
そういう人には同じ復讐物として、全ての観客の頭蓋骨を無理矢理ひんむいて脳味噌に直接怒鳴り込んでくる映画「オールド・ボーイ」をお薦めいたします。

あとは、冒頭の「メキシコ誘拐ビジネス事情」をわずか3分で伝える驚異的なタイトルバックが素晴らしすぎ。
他にも、ちょっと変わっている点として、この映画ではスペイン語がそのままスペイン語として描かれているので、非常に英語字幕が多用されています。
この字幕が結構凝っていて、字幕嫌いのアメリカ人にもアピールするかなり凝った面白い出来なんですね。
さらにこの英語字幕、実は一部の英語セリフにも付くんです。これがなかなか面白い効果をあげていて、ああいいもん見せて貰った、と思ったのですが、最近国際仕様の場合、この種の字幕が削られたフィルムが使われる場合もあるので、日本公開版はどうなってるのかなぁ、とちょっと心配。
劇場では付いていても、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」や「トラフィックジャック・タチじゃなくて、スティーブン・ソダーバーグの方)」のようにDVDでは削られる場合もあるので、必ず劇場で見た方が良いですよ!

そして、ラスト。粉川哲夫氏が、「ハリウッド映画の「良心」といういやらしい儀式」と書いていたんですが、確かにそういう面もあることは間違いないものの、製作陣の「安易な再映画化ではないぞ」という気迫が伝わる素晴らしいエンディングだと、自分は思います。(号泣)


・気になる所
少し位ケチをつけておくと、音楽に「ナイン・インチ・ネイルズ」がやたら使われているんですが、これってどうなのよ?
いや、ナイン・インチ・ネイルズはわたくし大好きなのです。でも、こういう既存の曲をリミックスして普通の「映画音楽」の代わりに使うのってどうなのよ?ということです。同じことは「セブン」のオープニングでも思ったのですが。
もちろん既存の曲を使うな、ということじゃないです。「卒業」や「イージー・ライダー」みたいに、まんま好きな曲が「歌もの」として使われるのは大好きです。
でも、そういうのと「映画音楽」として使うのって違うよね? 
だって使われる度に、「柱の陰から顔半分だけ出してこちらを覗くトレント・レズナー」って画が浮かんで怖いんだもの。


・トニスコの嫌いな1本
先日予告したトニスコの酷い1本とは「トップガン」でも「デイズ・オブ・サンダー」でもなく、当然トゥルー・ロマンスである。
本当に「トゥルー・ロマンス」大嫌い。全世界のトニー・スコットファンが何故、我こそはトニスコ信者なり、と宣言しないのか。その理由の8割は「トゥルー・ロマンス」にあるのは周知の事実。
だって、映画ファンでトニー・スコット好き、というと無条件で「トゥルー・ロマンス」好きだと思ってる奴いるだろ? いや、実際にあったことは無いけど、そういう奴はたくさんいるに決まっている。
俺はそういう奴らを残らずかき集めて、暗い物置の中に押し込んで、「やっぱりイナバだ。百人閉じ込めても大丈夫」というCMを撮った後、その物置をそのまま日本海溝に沈めてしまいたい。そして、「やっぱりファンに罪はない…」と悔いて自首するのだ。
なに書いてるのか分かりませんが、それ位「トゥルー・ロマンス」嫌い。この物語に「トゥルー・ロマンス」というタイトルをつけるセンスも嫌い。(こんな話が映画オタクのトゥルー・ロマンスだというのか! いや、ギャグかもしれんけど)クリスチャン・スレーターが「ドクトル・マブゼ」の話をするのも嫌い。お前、本当に見たことあんのかよ!(あったらごめん)フリッツ・ラングをなめんな。
それにな、「ドクトル・マブゼ」は軽々しく口に出していい映画じゃないんだよ。その証拠に、最近「ドクトル・マブゼ」の呪いを実証した本を発見したから、明日にでも紹介してやるぞっ。

*1:http://us.imdb.com/title/tt0093489/ 未見。残念ながらDVDは出ていないよう。