波止場 (エリア・カザン) ★★★★★

今年のアカデミー賞直後、マーティン・スコセッシがオスカーを獲れなかった理由として、98年のエリア・カザン、アカデミー名誉賞受賞に、スコセッシが深く関わっていたからじゃないの、と書いてあったブログを何箇所かで読んだ。(スコセッシはロバート・デ・ニーロと共にカザンを紹介、更に名場面VTRの編集も手がけた)
あの98年のアカデミー賞を見た人なら、まあありえると思う話で、エリア・カザンは有名な赤狩り時代の「密告」でハリウッドの少なくない映画人に嫌われている。*1
まあ確かにやったこともそうだけど、決して謝罪をしなかったらしいことと、度々「密告」を正当化していたことなどを聞くと、攻撃されるのも当然だと思う。
そういえば、カザンが晩年に作った「突然の訪問者」(ジェームズ・ウッズのデビュー作!)という映画は、ベトナム従軍時代に仲間の悪行を「密告」した主人公が、服役し刑を終えたその元・仲間たちに逆恨みで命を狙われる、というある意味「密告」を正当化している話しともいえて、最初見たときは「こりゃ嫌われても仕方ないよな」と思ったもんです。
で、そんな最低の男エリア・カザンの最高傑作といえば、この「波止場」asin:B0006TPF5K。例の「密告」事件が1952年4月、この映画公開が1954年なので、密告直後から製作に入ったのではないかと思われるこの映画、俺が勝手に言ってるところの「密告による犠牲者の生き血をすすった如き大傑作」。
正直、彼のせいで映画人生を狂わされた人たちには大変申し訳ないんですが、もしカザンが男らしく証言を拒否していたら、この映画は間違いなく今現在ある形では作られていなかった訳で、もうそれだけでカザンの悪行を断固支持したい位、自分はこの映画が大好き、だと。
何が好きなのか?と問われれば、当然マーロン・ブランドエヴァ・マリー・セイントはもちろん、リー・J・コッブ、カール・マルデンロッド・スタイガー等による名演であり(知らん人は驚くなかれ、この年のアカデミー助演男優賞候補は5人中3人が「波止場」出演者。その所為で受賞は逃したけど)、主人公が声をかけた男が屋上から突き落とされる衝撃の冒頭シーン始め、汽笛でブランドとエヴァ・マリー・セイントの声が途中聞こえなくなる超有名な港のシーン、バリー牧師の名演説に、後半車後部座席で繰り広げられる、ボクシングでの八百長を薦めた実の兄へのマーロン・ブランドの詰問等の名シーンの数々である、と。というか、俺にとってはこの映画名シーンだけが隙間無く連なっている、「名シーンの串団子映画」という感じなので「名画ってどう作るんだろう?」という疑問にはこの映画を見せて「最初から最後まで名シーンを繋げばそれだけでOK」と答えてあげたい位。
そんな全部大好きなこの映画の中で、特に一番好きなところは何処かというと、波止場の倉庫のでっかいシャッターがガッシャーーンと閉まり、「THE END」の字幕が出るラストカット。いや、今まで結構な数の映画を見てきたけど、ここまで血沸き肉踊るラストカットは他に無いです。間違い無く。初見の時は終了後思わず「うぉーッ」と叫びました。まじで。
ここから俺の妄想ですが、「映画のエンドロールは何故あるのか?」という問いに確か岡田斗司夫が「映画のラストで盛り上がった観客をクールダウンさせる為」と書いていたのを読んだことがあるんだけど、その話から言うと、この「波止場」はラストカットが映画中一番盛り上がるという「映画史上最もエンドロールが必要な映画」ということになるんですが、実はこの映画エンドロールが全く無いんですね(ラストカットに「THE END」がかぶって終わり)。
とすると、映画館ではそのまま客席の電気が付いちゃう訳で、俺なんか「うぉー」って叫んだ位ですから、電気が付いても席を立てないんですよ。興奮して。とすると、座ったまま次の回が始まっちゃう訳ですよ。という理由で席の回転が恐ろしく悪くなったので、劇場の抗議が殺到し、この「波止場」の影響でエンドロールが映画に付くのが一般化した、と俺は思ってるんですが、まあ全部妄想です。