女は二度生まれる (川島雄三) ★★★★

 ここんとこDVDが立て続けに出たんで、川島雄三祭り第一弾開催。今回は9月23日発売の3本で全部再見。
 「しとやかな獣(けだもの)」は知っての通り、新藤兼人が雑誌(キネマ旬報だったっけ?)に発表したシナリオを川島雄三がえらく気に入り、やっとの思いで映画化したもの。個人的に新藤兼人が日本映画界に果たした一番の貢献はこの「しとやかな獣」の脚本を書いたことで、二番目はこの脚本を自分で監督しなかったことだと思う。偉い。で、3、4が無くて5位が「鬼婆」監督かな。
 どうも、この川島雄三という人、世間一般では「喜劇」の名人、ということになってるらしいんだけど、自分はこの人の映画で笑ったことはほとんど無い。「しとやかな獣」だってブラック・コメディの傑作、とされているけど俺に言わせればちょっとブラック過ぎて笑えない。これは描写が行き過ぎてるということでは無くて、純度100%無駄の無いブラックだからじゃないかと思う。
 代表作「幕末太陽傳」にしたって、初見の時、自分はフランキー堺演じる「居残り佐平次」がしょっちゅうする咳が気になって気になって、全然笑えなかった。見た方は分かるだろうけど、どう考えてもフランキー堺演じる佐平次はもう間も無く死ぬんである。この映画のラストシーンが死ぬちょっと前に設定されている、というだけ。当初この「幕末太陽傳」のラストシーンは「居残り佐平次」が走って走って撮影所をそのまま出て行くはずだった、というのは有名な話だけど、これを初めて読んだ時は、まんま「死」の描写なんじゃないか、と思ってますます怖かったのを覚えてる。(蛇足ながら付け加えると川島雄三は45歳の若さで急逝。死ぬまでの3年間だけでも今回挙げた3本を含め10本以上の監督作があった)この幻のラストは「雁の寺」のラストにある意味、生かされてると思ってるんだけど、このラストも非常に恐ろしい。他の2本もそうだけど、晩年の代表作であるこの3本の後味は、下手なホラー映画よりずっと怖くて、3本とも初めて見終わった時は恐ろしくて震えてしまった。
 が、具体的にラストシーンで何か恐ろしいことが起こるという訳じゃないので、どう恐ろしいのか伝えるのが非常に難しい。それでも無理矢理例を作ってみると、映画の最後、「終」の文字が出る代わりに「お前の人生終わり」という文字が出た場合を考えてみよう。そう、そんな感じ。もしくは、魂を一瞬丸呑みにされた後、プハーッて吐き出された感じ。意味分かんないですね。「女は二度生まれる」は本編だけだと他の2つより明らかにつまらないと思うんだけど、ラストのこの感じが一番濃厚に出ているので★4つ。というか、川島雄三見て怖がってる奴って俺だけかも。