ドミノ (トニー・スコット) ★★★★★

 俳優ローレンス・ハーヴェイの娘で、バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)となった実在の女性ドミノ・ハーヴェイの半生(映画完成直前35歳で彼女は死亡したので、ほぼ一生といってもいい)を映画化したトニースコット最新作。
 「ドニー・ダーコ」の監督リチャード・ケリーが担当した脚本は、冒頭示されるとおり虚実入り混じっていて、年代も現在に置き換えられているし、あるわけねーと即座に突っ込みたくなる"Bounty Hunter of the Year"等、多分かなりの部分がフィクションと思われる(実際あったら御免)。
 冒頭の襲撃場所でも映像が流れる、父親ローレンス・ハーヴェイが洗脳された暗殺者を演じる代表作「影なき狙撃者」を始め、「サンセット大通り」「サイコ」「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(字幕は死霊のはらわた*1)等、数々の映画のタイトルがセリフの随所に織り込まれ、時系列・場所・視点を自由自在に往来、実在のテレビ番組・テレビマンまで実名で登場し、この映画の中心となる1000万ドル強奪事件を多角的にあぶり出す、ちょっと尖がったある意味青臭いともいえるこの脚本を、トニー・スコット「よちよち、よく頑張りまちたねー」と、赤子の手をひねる様に更にその何倍も尖った画質・編集スタイルでゴリゴリ映像化。結果、この凝った脚本がえらく普通に見える、という恐ろしいまでの豪腕ぶりを披露。そのスタイルはもちろん、これまでの「スパイ・ゲーム」「マイ・ボディガード」を更に押し進めたもので、「マイ・ボディガード」日本公開版では残念ながら削除されていた通称(てか呼んでるの俺だけ)「トニスコ字幕」(外国語や地名の字幕が連続する勢いにまかせて英語音声に付く英語字幕)も今回は日本でも大盤振る舞い。
 キャストも、生涯に一つの当たり役といえるドミノ役のキーラ・ナイトレイを始め、「シン・シティ」に続いて完全復活を遂げた師匠役のミッキー・ローク、トニスコ前作「マイ・ボディガード」でのいい人役に続き、今作ではコメディリリーフとして見事にボケ倒すクリストファー・ウォーケン、その秘書としてパーフェクトなモエモエ眼鏡っ娘を演じるミーナ・スヴァーリ、そして終盤、突然映画に登場する「トム」(どのトムかは見てのお楽しみ)とどいつもこいつも豪華すぎて鼻血もん。特に「トム」なんて「トム」じゃなきゃそのシーン自体カットしたっていいもんな。そして、この映画ラストカットに笑顔で登場する(後ろじゃ凄いこと起こってるんだが)故ドミノ・ハーヴェイ本人。前述の通り、彼女は完成した映画を見ていないはずだが、この笑顔を映画の完成度に対する満足の表現ととってもおかしくない程、この映画は彼女の混沌とした人生をそのまんま映画化した、映画史上を見回しても最高の伝記映画の一つと言っていい。…いいんじゃないかな。ま、ちょっと覚悟はしておけ。
 が、その結果そんじょそこらの前衛映画が裸足で逃げ出す、はっきりいって万人向けとはとても言えない映画となってしまった。そう、ハリウッドの中心ではなくトニー・スコット今や映画界の極北にいる。果たしてこのまま突っ走るのか。突っ走れるのか。アメリカでの興行成績はかなり厳しいようなんで、このままトニスコに突っ走ってもらう為にも、みんな「ドミノ」を見に行こう(泣)。今後「ウォリアーズ」のリメイクという考えただけで鼻血が出そうな企画もあることだし。

*1:UIP配給だから、多分権利関係のせいじゃないのかな? さすがになっちといえども、こんな誤訳はしないでしょう。