ハイテンション (アレクサンドル・アジャ) ★★★1/2

ハイテンション

 フィリップ・ナオン。
 こちとら、すっかりこの名前を忘れていて、冒頭クレジットに出た時主役のオンナのことか?とマジボケしてしまった(フィリップだっての)。そう、ギャスパー・ノエの「カルネ」「カノン」でテメエの娘に手を出すキチガイ肉屋を演じた親父のことである。
 その気狂い肉屋が、突然真夜中家に現れ、家族を一人づつボッツンボッツン殺していくのだ。役名も"殺し屋"。そんなの怖いにきまってら。
 まあ、今回は「カノン」での過剰な独白どころか、セリフすらほとんど無いし、おまけに序盤は深々と帽子を被って目すら画面に写らない。それでも(それゆえに)、こいつはヤバイというオーラを十二分に発しながら、いかに効率よく残酷に殺すか、という実験データを収集するが如く、淡々と無駄な動き一つせずに殺人を続けて行く。この間、ヒロインは家の中を奴から隠れ逃げ回ることしかできない。
 と、ここまでの前半はかなり素晴らしかったんだが、中盤やけに大振りな殺しを彼がした直後から風向きは変わって、緊張感は急速に失せる。まあ、ある意味当然だけどヒロインが恋人を取り戻す為に(レズビアンなのだ)反撃に転じるから。そしてそれ以外にも、前半はいかにも古き良きスラッシャー映画だった展開が、後半良くも悪くも"21世紀の映画"な展開に無理矢理なっちゃうからなんだけど。この終盤の展開アリかナシか、と聞かれれば、そりゃナシと答えますよ。無理有り過ぎだもん。どんな展開かというと、実はこの映画"High Tension"の他にもう一つ、"SWITCHBLADE ROMANCE"という英題があって、最初何このタイトル?って思ってたんだけど、終わってみればこっちもありかなー、と思う展開。
 ちなみに、この監督の次回作は来年公開の「サランドラ」リメイク(撮影は終了)。「蝋人形の館」の監督みたいに、いきなり全然違う方にいっちゃうのも反応に困るけど、こんなに直球の場合もちょっと不安。