ミュンヘン (スティーブン・スピルバーグ) ★★★★★

 いやもう、この映画面白すぎ。
 深刻ぶった社会派映画、と思い込み躊躇している人は今すぐ映画館に飛び込め。
 これは「宇宙戦争」と「マイノリティ・リポート」を撮りトム・クルーズに仁義を切った事で実現した「スパイ大作戦 The Movie」であり、「仁義なき戦い 欧州死闘編」であり、「空飛ぶモンティ・パイソン 第34話 アサシン野郎危機一髪」であり、「ブラック・セプテンバー(「ブラック・サンデー」…ちょっと分かりにくい)」であり、「フレンチ・コネクション(あ、まんま)」である。

 何から何まで全てが面白いあっという間の160分だったんだけれど、特に凄まじかったのがギャグの切れ味。
 スピの「ギャグ代表作」といえば「レイダース」の「銃でバキュン」だと思うけど、このレベルのギャグがこれでもかこれでもかと目白押しで登場。さすがに笑うのは不謹慎だよね、とは思ったものの「不謹慎は笑いにおける最高の調味料」という、今俺が思いついた名言が示す通り口を抑えてこらえる事数知れずで(ちょっと腹が痛くなった)、親父の葬式の最中、引っくり返って笑い転げ親戚一同に怒られた経験のあるテリー・ギリアムなら大爆笑間違いなしのハイレベルギャグが満載。もちろん、このギャグ群が徹底してリアルな演出にも寄与しているのだからやっぱスピ、お前上手すぎちゃうんかと言わざるを得ない。
 そしてこのギャグ・センスが演出以外で更に濃厚に表れているのがキャスティングで、次期ジェームス・ボンドダニエル・クレイグを、一番強気な発言を繰り返しながらも、一番見せ場の無い車両係にキャスティングする当たりがまず絶妙*1。そしてリーダーに、同じくボンド候補に名前があがったこともあり、実は本職コメディアンエリック・バナ、というのもしびれる。
 爆破担当のマチュー・カソヴィッツはもちろん、「アメリ」の役柄が重なり、多少映画好きなら「憎しみ」「アサシンズ」の監督という前知識があるのも、当然計算の内だろう。
 …と、余りに面白いキャスティングなんで、最初フランスで現れた「ルイ」を見たとき「おお、ロマン・ポランスキーと思ってしまったんだが、それって俺だけ? 似てない? もう一つ勘違いといえば暗殺チーム中、一番プロフェッショナルで一番工作員らしく描かれるスイーパー(掃除屋)のカールも最初登場した時、「おお、ユージン・レヴィ」と思ってしまったんだけど、…さすがにこれは酷すぎる間違いだな。でも、もしユージン・レヴィだったら、あの「目を見開いてる」シーンで俺は間違いなく大爆笑して笑い死にしたと思う(じゃあ、やっぱりキアラン・ハインズで正解だな)。
 で、俺の結論としてはこの映画、スピルバーグ版「殺し屋1」、ということになりました。
 原作を知らないと分かりにくいんじゃないか、という話も聞くけど、この事件に関する知識が2,3年前に見た「ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実*2」で得た物のみ、という俺でも特に混乱した点は無かったので多分大丈夫。そういえば劇中ちょっと言及がある「ETAバスク祖国と自由)」についても、俺の知識といえばフリオ・メデムのドキュメンタリー"The Basque Ball"を見た位な訳で、いやあ俺って映画見てなきゃ本当最低限の知識も無い只のアホだな、と寒気がしました本当に。

*1:キャスティング時は決まってたか分からんけどな。

*2:劇場でDVDが先行発売されてるらしい。本当?