ジャーヘッド (サム・メンデス) ★★★★1/2

 予告編にもある360度砂漠が広がり、その地平線の向こうに何本もの油田が燃え上がっている映像を見て思ったこと。

 「この映像が見られただけでも、湾岸戦争はやって正解。 ブッシュ親父グッジョブ」


 多分、日本だけでもこう思った奴は500人位いると思うんだけど、とにかく「アメリカン・ビューティー」のサム・メンデスが撮った湾岸戦争映画。
 冒頭の「フルメタル・ジャケット」風刈り上げ→訓練から、「地獄の黙示録」上映会、「ディア・ハンター」のビデオ差し入れ等、矢継ぎ早に繰り出される戦争映画への言及。最初はこれらのように戦時中に言及され得ない映画を俺は目指した、というサム・メンデスの宣言か、と思ったものの、サム・メンデスの視点はもっと冷めていて、これは現在海兵隊では「フルメタル・ジャケット」が実際に訓練の手本にされていたり、「地獄の黙示録」が戦意高揚に一役買っていたり、戦争映画というよりは鬱々ロシアン・ルーレット映画な「ディア・ハンター」でさえ兵士は戦場で見たがるぜ、という単なる事実である。
 当然、イラク戦争では「プライベート・ライアン」を兵士達は嬉々として観賞しただろうし、この可能な限り戦争的興奮から遠いところにある戦争映画「ジャーヘッド」でさえ、次の戦争ではみんな「ウーアー」っていいながら見るんだよ、という「批判・肯定を問わずありとあらゆる言動を吸収し日々成長・変質していく戦争という怪物」を描いたある意味究極の戦争映画。
 そりゃそうだよな、と思うのは人類が誕生してこの方、今現在に至るまでひと時も欠かさず行ってきた事といえば戦争と子作りくらいしかないんであり、そして「子作り」の方にちょっと黄信号が灯っている現代、戦争は人類にとって幸福な時も幸福でない時も富める時も貧しい時も病める時もすこやかなる時もこちらの数々の罵倒にも関わらず、ずっと一緒に付き合ってきた最古の友人のような存在である。無理にこの「戦争」を視覚化してみると、一番近いイメージは俺の中じゃ「トトロ」で、突然となりに出現したり、猫バスになって空を一緒に飛んでくれたりするのだ。(もちろんそのまま全然知らない処につれていってくれて、帰ってこれなくなったりもする)この映画はそんな「となりの戦争くん」を実際の戦争を舞台にして描くことに成功した傑作。
 戦争の無い世界を想像すると、何故か人っ子一人いない情景しか思い浮かばない想像力貧困な方におすすめ。