釣りバカ日誌18 ハマちゃんスーさん瀬戸の約束 (朝原雄三) ★★★

 これはやばい。三國連太郎がやばい。完全に死相が浮き出ている。映画がスターの輝きをスクリーンに映す為のメディアであるとすれば、この映画のスクリーンにはスター三國連太郎の(負の)輝きが間違いなく映し出されている。
 映画冒頭、スーさん(三國連太郎の役名ね)の奥さんが言う「近頃、あなた滑舌悪いわよ」はギャグでもあるはずなのに、全く笑えない。それどころか、「なんて酷いことを言う奥さんだ」とすら思う。そして予告にもある、会長就任演説の際、頭がすっかり真っ白になったスーさんに至っては、何にも気付かない社員一同に「お前ら、今にも死にそうなこの老人を前にその態度は何だ。早く助けろ」と怒り沸騰。もちろん、その場は浜ちゃんの勘違いで場は収まるわけだが、これでスーさんは自分の老いと目前に迫った死を完全に自覚し、浜ちゃん一家に自分の認知症を告白。が、まだそれらを受け入れる準備ができていないスーさんは、突然岡山へと逃亡をはかり、そこでお世話になったお寺で、この土地に巻き起こっているリゾート開発とその反対運動を知り、一肌脱ぐことになる…、というのが主だったストーリーなんだが、最もやばいのがその一肌脱ぐシーン。
 渋谷剛三という地元の有力者の家を訪れたスーさんは、不気味な薄暗い部屋で待たされる。暗闇の向こうから車イスで表れるのはなんと小沢昭一。想像して頂ければ分かると思うが、まるで悪魔か死神としか思えない禍々しさである。結果、この対面によりリゾート計画は白紙に戻されるのであるが、つまりスーさんはその代償として悪魔に魂を売り渡したのだ。
 ラスト、ヒロインである壇れいにだけスーさんは告白する。自分は戦後のドサクサでさっきの男(悪魔)と一緒に随分人に言えないことをして金を稼いできたんだと。決して天国へなど行けることのない、地獄へまっ逆さまに落ちるべき人間であると。そんな、もとより平穏な死(もはや「死」でさえないかもしれない)を迎えること等かなわない人間である自分が、やっとそんな自らを受け入れることができたと。(この段落、少し妄想あるかも)
 今回のストーリー、そして社長退任という進展を考えると、山田洋次は遠からずスーさんの死、つまり寅さん等で描くことが出来なかった人気シリーズの終焉を描くつもりだと思われる。やはり「20」という区切りが一つの可能性だと思うんだが、もし松竹が許さなくても、実際に三國連太郎が死んだらその葬式でロケを行う位のことは今の山田洋次ならやってくれると思うので(根拠無し)、これからも「釣りバカ」から我々は目が離せないのだ。
 追記:「三國連太郎」という芸名が、デビュー作「善魔*1」の役名から取られたことは有名であるが、その点から言っても映画の中で「三國連太郎」の死が描かれるのは、ある意味必然ではないだろうか。頑張れ山田洋次(一応説明すると、山田洋次は釣りバカシリーズ全作品の脚本を書いている)。

*1:監督:木下恵介。面白いよ