ALWAYS 三丁目の夕日 (山崎貴) ★★★★

 ああ、こりゃやばい。
 見ている最中から、なんかやばいとは思っていたけど帰宅後、窓の外さんのレビュー*1で「オトナ帝国の逆襲」だという指摘を見て疑問氷解。そうか、この映画は「イエスタデイ・ワンスモア2nd(戦後東京編)」の完全なプロパガンダ・フィルムだったのだ!
 正直、俺も小雪吉岡秀隆など、多少違和感のあるキャストのおかげで正気を保つことができたけど、あやうく奴等の軍門に下るところだった。あぶないあぶない。
 前回クレヨンしんちゃんに破れた奴等は、今回標的をしんちゃんその人、つまり戦後当時を知らない人々に焦点を当てた。そして「太陽の塔」という当時を知る人にこそアピールする記号ではなく、老若男女誰でも知ってる「東京タワー」しかも「建設中」という当時を知らない人にも興味深い題材を中心に据え、「三種の神器」、「集団就職」、「みんなでテレビに集まって力道山観戦」等、ノスタルジー漂う「記号」の絨毯爆撃を開始した。
 もちろん、これらの「記号」は山崎監督自身この時代以後の生まれであることからも分かる通り、単なる記号以上の物ではなくて、当時を本当に知る人からは「記号」細部の間違い、そして描かれない「記号」(大家族とか)に対する文句等は当然あるだろう。が、それらの取捨選択故に俺のような「田舎生まれ、田舎育ち、田舎在住二十代男」にも強烈なノスタルジーを喚起する「戦後間もない東京」という見事なファンタジー空間の形成に成功したのだ。
 もし、このまま時が流れ、当時を知る人々が死に絶えたとき、この映画こそが「戦後の東京」である、ということにすらなりかねなく、この山崎監督…というか奴等の手先の手腕には敵ながらあっぱれというしかない。
 戦いに勝つにはまず敵を知ること、という意味でもまず映画館に足を運ぶことが今、我々レジスタンスに求められていることなのではなかろうか。