キング・コング (ピーター・ジャクソン) ★★★★★

 ピーター・ジャクソン悲願の企画である「キング・コング」完全リメイク…、というのは真っ赤な嘘で、実際は劇中、登場人物の一人が手にしているジョセフ・コンラッド「闇の奥」の再映画化、つまり地獄の黙示録」のリメイクであった。もちろん、ジャック・ブラック演じるカール・デナムのモデルとなったオーソン・ウェルズが長年温め続け、結果実現しなかった「闇の奥」の映画化という意味でもある。
 ストーリーは「髑髏島」の奥深くで自分の王国を築いて君臨しているキング・コング(カーツ大佐役)を倒すため、カール・デナム(ウィラード大佐役)一行が島に上陸する、というもの。上陸直後、サーフィン大好き船長(キルゴア大佐役)一向が切り立った岸壁からサーフボード片手に大荒れの海に大喜びで飛び込むシーンや、「ワルキューレの騎行」に乗せての原住民大虐殺等、オリジナルへのオマージュもたっぷり。
 が、なにより圧巻なのは、終盤コングの首を一刀両断に切り落としたジャック・ブラックが、その後コングの右腕一本を丸ごと食って平らげる様が丸々20分間かけて詳細に描かれることである。ここはさすがに3時間強の上映時間なだけのことはあるな、とためいきをついた。全地球人必見。
 ちなみに、予告編でヒロインのように描かれていたナオミ・ワッツプレイメイト・オブ・ザ・イヤー役。



 うーん、もう限界だ…(早いな、おい) 何より俺は「闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)」を読んだことが無い。あきらめた。



 で、本当の「キング・コング」のストーリーを要約すると、ちっちゃい女の子に惚れた男の悲劇である。いや嘘じゃない。嘘じゃないんだ!(心の叫び)
 これが感情移入せずにいられようか。まるで俺の為に作られた映画のようぢゃないか。そう、「キング・コング」と聞けば真っ先にコナミファミコンゲーム「キングコング2」を思い浮かべる俺の為に!(これ本当)
 いや、オリジナルも4,5年前に一度見たことはあるんだけれど、正直ディテールは大して覚えていないんで、多分一般の観客とほとんど同じ土俵でこの映画を見たと思う。そうすると、ピーター・ジャクソンの一番やりたかったこと、つまり「オリジナルへの愛」が結構うざいのは確かなんである(正直、最後のセリフとか言わずもがなではないか、と思ったし)。
 愛は盲目。劇中のコングがアン・ダロウへ寄せる愛で破滅していくように、ジャクソンはオリジナル「キング・コング」への愛で前が見えなくなってるんじゃないか。LOTRでは指輪ファン・映画ファン双方の期待に絶妙のバランスで最大限に応えていたジャクソンだが、今回は自分が一番のファンである為に、どうもそういうまともなバランスが取れてないんじゃないか。というか、取ろうとした形跡が無い。単に3時間超えの上映時間ということだけでなくその娯楽密度がサービス精神とか、そういう生易しいものじゃなくて、まるで客に食事を平らげられることを恥と思い、絶対食いきれない量を出す中国人のように尋常じゃない。だから「キング・コング」観賞後、間髪入れず「ロード・オブ・ウォー」を見る予定だったのに、「もうお腹いっぱい」ってことで家に帰ってきちゃったもん、俺。
 が、自分が好きなピーター・ジャクソンはこっちの過剰なピーター・ジャクソンであって、出来が素晴らしいのは認めるものの「指輪」でちょっと向こう側にいっちゃったよなぁ、と思っていたジャクソンがまだまだ完全にこっち側だったことを知り「ジャクソンへの愛」で一杯な俺は盲目であることを承知で五つ星を付けますよ、と今「さまよう魂たち DC版*1」を見ながら思った。後、2回は映画館で見たい。

*1:US盤(1枚・両面仕様)。てか、さまよう魂たち スペシャル・エディション [DVD]は本当にディレクターズカットじゃないのだろうか。ジャケット同じなんだけど。