エミリー・ローズ (スコット・デリクソン) ★★★★

 「ヘルレイザー/ゲート・オブ・インフェルノ」(俺はシリーズ中唯一好き)の監督にして、ヴィム・ヴェンダースの「ランド・オブ・プレンティ」の原案にもクレジットされている変り種、スコット・デリクソン最新作。
 まず冒頭登場するエミリー・ローズの実家の寒々しさが俺の心をガッチリ鷲づかみ。基本は法廷劇ということで、決してやり過ぎにはならないものの、きちんとエミリー・ローズの主観描写で見せる物ははっきり見せるホラー描写は良質のジャパニーズ・ホラーと比べても遜色無し。エミリー・ローズジェニファー・カーペンターが特殊効果ほぼ無しで演じているらしい悪魔憑きイナバウアーとの合わせ技もかなりお見事で、これだけでもホラーファン必見。
 後半は法廷シーンが多めになるので、キリスト教徒でもないから悪魔かどうかなんてどっちでもいいや、と退屈に思う人が結構多いと思うんだけど、いやいや、こここそが非キリスト教徒にとって最も恐ろしい場面であって、 (ここからちょっとバレ気味)  この映画全編を通して描かれているのは、最初に自ら「不可知論者」だと自己紹介する主役の女弁護士(ローラ・リニー)が、容疑者の神父を弁護する過程を通じて向こう側(宗教)の論理にどんどん取り込まれていく様子なんである。
 実際、この事件自体は日本の「ライフスペース」の奴なんかとほぼ一緒であって、彼女の最終弁論を聞いている途中、基本的には無宗教だけどどっちかといえば信教には寛容だと思っていた自分が、しばらく前から話題のID論インテリジェント・デザイン説の論理を思い出してしまって、ちょっと戦慄した。作り手がどこまで意識しているのかは分からないけれど、ID論が台等するアメリカ社会の下地を世界に伝える問題作、かもしんない。