日本沈没 (樋口真嗣) ★★★

 注意:ネタバレ全開










 いやあ、見る前はかなり心配だったものの、この規模の大作映画としては異彩を放つテクニカルな脚本で感嘆。草なぎ剛柴崎コウ共演のTBS映画という段階で気付くべきだったんだが、小松左京原作「日本沈没」というのは半分以上嘘で、実際は黄泉がえり2」だった。
 映画を見た人ならまず全員が不思議に思う、草なぎ剛演じる小野寺の日本全国を駆け巡る瞬間移動術。そしてクライマックス直前、柴崎コウにテントで誘われるものの理解不能な(いや、俺は同意しますが)セックス拒否。観客の頭に?を埋め込むこれらの行動も、小野寺が死人と分かれば全て納得。
 この手の映画は最近じゃ一杯あり過ぎなんで新味は全くないが、小野寺は映画冒頭の沼津地震で女の子を助けようとして既に死んでいたのだ。で、死んでない冒頭の映像は何かといえば、もちろん柴崎コウの捏造された記憶である。終盤に彼女の育ての親が小野寺に明かすように、柴崎コウには虚言癖があり、しかも自分の付いた嘘を本当だと信じ込んでしまう傾向があったのだ。レスキュー隊員として小野寺を助けられなかった後悔の念(と、多分一目惚れ)のせいで「彼は生きている」と柴崎コウが思い込んだ結果、小野寺は黄泉がえったのである。
 が、ここで疑問が生まれるのは何故他に「黄泉がえった人々」が出てこないのか。当然答えは簡単で「黄泉がえり」の条件が1作目と違うからである。これまでの話から推測すると、今回の条件は「柴崎コウが生きて欲しい」と願うこと(もしかすると、あの女の子も「黄泉がえり」なのかもしれない)。つまり、柴崎コウは幼い頃のいじめが原因で物凄い力を授かってしまった自覚の無い超能力者だったのだ。
 ここまでくれば真実までもう一歩。そう、『日本沈没』という現象は「レスキュー隊員として思う存分活躍したい」という柴崎コウが抱いていた願望の具現化であり(だから、ラストシーンは柴崎コウのレスキューシーンなのである)、つまるところ全ての災厄の元凶は柴崎コウだったのだ!
 自分が「黄泉がえり」だと知り、日本崩壊の原因が柴崎コウだと分かった小野寺はいったいどうするか。自分が心魅かれた女性が怪物だと知った男はどうするのか。ここからは多少推測になるが、柴崎コウにセックスを迫られたあの晩、小野寺は彼女を殺すつもりだったのだろう。そりゃあ、これから殺そうと思う女とセックスはできない。が、いかに日本を救うためとはいえ、愛する女性をこの手にかけることは自分には不可能だ、と小野寺は日本を救うもう一つの方法に命を賭けるのである。それこそ「愛する人を守るため」に。いやあ、いい話じゃんこれ。結構感動したよ。