ザ・センチネル 陰謀の星条旗 (クラーク・ジョンソン) ★★★★★

 今週から公開となる「ザ・センチネル」はフリークス満載の激ヤバ映画ではなく、あのマイケル・セックス中毒・ダグラスが「24」で今乗りに乗っているキーファー・サザーランドと共演したポリティカル・サスペンスである。当然、観客として我々が期待するのは「24」並みの陰謀の渦であり映画館のスクリーン一杯に広がる陰謀陰謀陰毛陰謀を目撃するため、私は映画館へと足を向けたのだ。
 映画が開始され数分後、私はあることに気付く。…何故か妙にセリフの音が小さい。ボリュームの調整間違いかと思い耳をすましていると、BGMは徐々に普通の映画館に流れる音量となり一瞬安心する。が、BGMが消えた後にはまた妙に小さな音のセリフが連続してマイケル・ダグラスの口から発せられることとなり、私は確信した。


 これは、陰謀だ。


 何者かの陰謀により、セリフが流れる(多分メインの)スピーカー音量だけが何故か小さくなっているのだ。速やかに劇場を出た私は、近くにいた女性係員を呼び止める。一瞬の後、こいつも敵方かもしれない、と声を掛けた事を後悔するが事態は切迫している。「これこれこうナリよ」「え!」とビックリして走り出す女性係員。これで安心か、と席に戻った私を再び衝撃が襲う。
 ついさっきまで私が座っていた席に見知らぬ男がいるのだ。いや、正しくは座っていた席の隣なのだが、つい1分前に席を立った時点では、その列に座っていたのは確かに私一人だけだった。この男はこのわずかの間に一体どこからやってきたのだ? たった今、劇場に入ってきたのだろうか。しかし、既に上映開始から20分ほど経っているし、私が係員と話している間も誰かが劇場に入った記憶は無い。自分が元の席を勘違いしたのかとも思ったが、よく見ると自分が持ってきた本*1も自分の隣の席(つまり男から2つ離れた席)におかれている。そうか…


 これは、陰謀だ。


 訝りながら男の前を通り席に戻ると同時に劇場の電気が付き、スクリーンの光が消えた。やはり何かの手違いだったのか。係員の「申し訳ございません。すぐに上映再開いたしますので、もう少しお待ちください」という声。本の続きを読む振りをしつつ謎の男を観察するが、男はそのまま席を動こうとしない。一体この男の目的は… そうこうしている内にまた劇場の電気が消える。スクリーンに光が当たり、我々は安心…しなかった。音声がさっきと同じ状態だったのだ。また電気が付き、スクリーンは消えた。また係員が謝りに来た後、三度目の挑戦。
 …更に音の状態が悪くなっている。
 ライトオン・係員謝罪・ライトオフ。
 画面の縦横比が間違っている。
 ライトオン・係員謝罪・ライトオフ。
 画面がずれて字幕が上に付いている。
 ライトオン・係員謝罪二章「申し訳ございませんが、機械が復旧できず今日の上映は不可能となってしまいました。つきましては代金払い戻しとさせて頂きますので何卒ご了承下さい…」


 これは、陰謀だ。


 確かに一瞬、横に座る男の唇が怪しい笑みを浮かべた感じがする記憶がたった今捏造された。客は皆チケットカウンターにて半券を係員にわたし、払い戻しの代金とお詫びのタダ券を貰っていく。ここで私はある事に気付く。半券が無い。全てのポケットをあさっても半券は出てこない。一番最後に並んだ私は意を決して係員に話しかける。「…半券なくしちゃったんですけど」「…あ、いいですいいです」


 これは、陰謀だ。


 あの謎の男は既に消えていた。「お前、映画20分も見てないくせに何で★★★★★よ」と文句を言う人がいるかもしれないが、私は「陰謀」を目撃する為に映画館に出かけ、確かに「陰謀」を目撃したのだ。これが★★★★★でなくて何が★★★★★であろう。今になって思えばあの男は全国津々浦々の映画館を渡り歩き、今回のような陰謀を仕掛けまくっているのかもしれない。そう、明日あの男が陰謀を仕掛ける映画館はあなたの住む町の映画館かもしれないのだ…