それでもボクはやってない (周防正行) ★★★★1/2

 1962年のオーソン・ウェルズ監督版、1992年のハロルド・ピンター脚本版に次ぎ三度目となるフランツ・カフカ「審判」の再映画化…とでも言いたくなる、ほぼ10年振りとなる周防監督オリジナル最新作。
 正直、冒頭に字幕でデカデカとこの映画のメッセージとでも言うべき文章が出てきたところで、「だめだこりゃ」と思ったんだけど、その後は周防監督らしい非常に優れたバランス感覚が発揮されていて、プロパガンダ映画としてはほぼ完璧。これを見て何とも思わない人はもう何言っても無理です。多分。決して声高にはならずに、140分もの上映時間中、淡々とタイトルから予想できる通りの結末に向かって主人公に実際の現実に基づいた数々の不条理が襲い続ける様は日本の「ユナイテッド93」とでも言うのがふさわしい(ちょっと言いすぎか)社会派映画に仕上がっております。
 まあ、田舎者の視点から見ると、警察・司法の現場がカフカ的不条理に満ちている、というよりはそれ以前に痴漢の現場である満員電車自体が最もカフカ的な空間に見えるんで(多分、人類史上最も人口密度が自発的に高まる空間でないの?)、その後の出来事がむしろ当然の結果に見えたりもするんだけど。まあそれで範囲をどんどん広げていくと、どうしていいか本当に分からなくなりますけどね。
 製作の亀Pは、多分「次回は本格娯楽映画を作ること」という交換条件でこの映画を製作したと思われるので、周防監督に早いとこ次回作を首に縄つけてでも作らせるように。