「フローズン・ビーチ」のDVDを久々に見る

 やっぱ面白えなあ(終)。ちなみにこのDVD、ナイロンの公式ページ*1でなんにも説明がないんだが、本編ディスクと特典ディスクの2枚組で、本編は役者陣によるコメンタリー付き(ケラは幕間にだけ登場)。こういうことを書いとけばちょっとでも売り上げが増える気がするんだけど、何で書かないのか不思議だ。(コメンタリーはあんまり面白くないが)
 という訳で、この確認の為にたった今久々に公式ページを開いたら、劇団健康のDVDが延期になっていてちょっとガッカリする。が、KERAがブログをはじめていたことを知ったので勢い流し読み。ケラの新作映画「グミ・チョコレート・パイン」の予算がナイロンの舞台の三分の二だと知り驚愕*2。舞台より少ない予算で映画を撮るってちょっとすげえ。その後も「予算無い」話がたびたび出てきて笑う。いやあ、凄い。一つバッチリだなと思ったのがヒロイン役が黒川芽以ちゃんということで、原作をかなり昔に読んだおぼろげな記憶によると、たしかヒロインの娘は(一応ネタバレ反転→)「芸能界に入ってヌード」になるはずで、黒川芽以ちゃんが昔、「NHKのドラマでヌード」になってたことを考えるとバッチシの人選といえましょう。


※追記
フローズン・ビーチ」のキーワードからリンクされていた井上ひさし岸田國士戯曲賞選評が凄すぎるので全文引用。

「おめでとう」を云う資格   井上ひさし
 ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏に「おめでとう」と申し上げる資格を、わたしは完璧に欠いている。七人の選考委員のうち、氏の『フローズン・ビーチ』に×印をつけたのは、わたしだけだったからである。
 わたしが最後まで推しつづけたのは、『手の中の林檎』(内藤裕敬)で、
 一、登場人物一人一人が目覚めるたびごとに「局面」が変わる仕掛け。
 二、一人の俳優をのぞく全員が複数の役柄を演じる仕掛け。
 三、幕切れが、また幕明きに回帰して、劇世界が無限につづきそうに見せる仕掛け。
 ……こういう仕掛けこそ、演劇固有のもので、小説や音楽や映像などの、他の時間芸術では代替がきかないと見て、推しつづけたのである。
 もちろん、支持者が一人では最後まで保たない。また、選考委員会を構成する一員としては、いつまでも粘っているわけにも行かない。そこでお仕舞いは、ほとんど棄権、というような態度で、ごくごく消極的に、『フローズン・ビーチ』の受賞に賛意を表明した。
 どこがそんなに気に入らなかったのかといえば、台詞によるギャグ(笑わせる工夫)が陳腐でつまらないし、冒頭の受話器の置きっぱなしは演劇的に不自然だし、せっかくの双子の設定は燃焼不足で結局は意味がないし、後半は芝居というよりはヴァラエティショウだし……数え上げれば際限がなくなる。
 もっとも市子という人物はすごい。彼女は、一々、端倪すべからざる言動に出て劇を前進させる。このような人物を創造した才能の未来を信じよう。そう思って、しぶしぶ受賞に賛成……やっと、おめでとうを申し上げる資格ができたかもしれない。そこで、
「ケラリーノさん、おめでとう」

 かつて文章において、これほど空虚な「おめでとう」が存在したであろうか。こんな評がトップにのってる賞を貰っても嬉しくないだろう、とも思うんだが(あ、それでケラ氏は事あるごとに周りの人が喜んでくれたので貰ってよかった、と言っているのか)、この評があながち間違いでもないよな、と思うのも事実。再見する前は完成度の高い完璧な芝居だと思ってたんだが、見直したら確かに「市子」一点突破の作品と言えるかも。でもこの「市子」の存在だけでも賞の一つや二つはあげたくなるレベルの作品である事もまた間違いない事実。